円安×再開発で資金流入
海外ファンドが狙う一等地マンションとホテル投資のリアル


近年は、東京や大阪の一等地において、海外ファンドによる不動産投資が活発化しています。なぜ今、彼らは日本の不動産を買い漁るのでしょうか。ここでは資金流入の背景にある円安メリットや低金利環境、海外勢の投資対象の傾向、さらには日本の個人投資家に与える影響、どのように対処すべきかを整理し、最新の不動産投資トレンドについて解説します。
海外ファンドとは?
ファンドの種類と資金調達のスケール
海外ファンドとは、海外の個人・機関投資家から資金を募り、不動産などの資産に投資する組織体のことを指します。その規模や投資戦略は多岐に渡りますが、日本の不動産市場に影響を与えるのは、主に大規模な資金を運用するファンドで、以下のタイプに分類されます。
プライベートエクイティファンド(PEファンド)
未公開株・未公開企業への投資がメインですが、不動産を投資対象とするケースもあります。高いリターンを狙い短中期的に投資・売却を繰り返したり、長期的なバリューアップを通じたリターンを目指したりします。
ヘッジファンド
さまざまな金融手法を駆使し、市場の上げ下げに関わらず絶対的なリターンを追求するファンドです。不動産市場においても短期的な価格変動を狙った投資をすることがあります。
年金基金・政府系ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド)
各国の年金資金や政府資産を運用する巨大ファンド。超長期的な視点で安定的なリターンを追求するために、流動性の低い不動産をポートフォリオに加えることがあります。
不動産ファンド(REIT・プライベートファンド)
不動産に特化したファンドで、REIT(上場不動産投資信託)は証券取引所に上場しています。海外ファンドが直接不動産を取得する場合は、プライベートな不動産ファンドが中心です。
これらのファンドが調達する資金は数百億円から数兆円にも及びます。その資金力は国内の投資家と比較にならないほど巨大で、莫大な資金が日本の不動産市場に大きなインパクトを与えています。
投資判断プロセスとリターン目線
海外ファンドの投資判断プロセスは、数値データと経済合理性を重視する傾向にあります。投資対象国の経済成長見通し、金利動向、為替レートなどを分析するマクロ経済分析、特定エリアの不動産市場の需給バランス、空室率、賃料トレンド、今後の再開発計画などを調査する市場分析、投資対象となる物件の収益性、立地などを詳細に適正評価する個別物件分析を経て最終的な判断にいたります。目標リターンは各ファンドで異なりますが、内部収益率(IRR)10~15%以上を求めるケースが目立ちます。
参入国別プレイヤー(米・中・シンガポールなど)
国土交通省の令和2年度「海外投資家アンケート調査」によると、2020年に日本の不動産市場に投資された資金のうち、地域別では上位10社の内訳は北米が59%を占め、次いでアジアが27%、欧州が14%という結果でした。
米国系ファンドは古くから日本の不動産市場に参入しており、PEファンド、年金ファンドなどがプライムアセットに投資をしています。富裕層の資産保全や分散投資、中国国内の景気減速を背景に、中国系ファンドの動きも活発です。シンガポールは政府系ファンドが代表的で、超長期的な視点で安定的な収益が期待できる大型商業施設やオフィスビルなどに投資をしているようです。他にも香港、台湾、韓国など、近年はアジア圏内の経済成長を背景に、アジア系ファンドの比率が上昇しています。地理的に近く文化的な親和性も注目される理由の1つでしょう。
海外ファンドが狙う不動産の特徴
都心一等地のプライムアセット
海外勢が狙うのは、圧倒的な立地条件を備えた「プライムアセット」です。東京の銀座、赤坂、六本木、丸の内、大阪の梅田、難波、心斎橋など、各都市における地価上位3%に位置するような地域にある物件を取得しています。安定収益と高い資産価値保全が実現し、景気変動に左右されにくいのもメリットです。
高級レジデンス&ホテルが主戦場
投資対象は多岐に渡りますが、近年目立つのは高級レジデンスとホテルです。前者は都心の一等地に建つ平米単価2000万円を超えるような超高級タワーマンションやブランドレジデンスで、国内外の富裕層や駐在員、インバウンド需要による短期滞在者からの需要が期待できます。インバウンド需要の急速な回復を背景に、ラグジュアリーホテルやビジネスホテルの開発用地、既存ホテルの買収も活発です。
中長期でのキャピタルゲイン狙い
短期的な売却益だけではなく、中長期的な視点でのキャピタルゲインを狙うケースが目立ちます。前出の「海外投資家アンケート調査」でも、国内不動産の運用期間は5~10年未満、10~20年未満が多くを占めています。ある程度の保有期間を設定し、その間にリノベーションや改修、オフィスビルをレジデンスにするといったコンバージョン(用途変更)、テナント構成の最適化など、物件価値を高める施策を実行した後に市場のタイミングを見計らって売却し、大きな利益を獲得するのです。
海外ファンドが日本に資金を向ける背景
円安メリットと低金利環境
直接的な要因の1つが円安と低金利環境です。海外の投資家にとって円安は日本の不動産を割安に購入できるチャンス。日本の金融機関は諸外国に比べて低金利で資金を提供しており、海外ファンドが日本国内で低金利の円建て融資を受け不動産に投資することで、金利キャリーも得られます。調達コストが低いため、投資利回りを効率的に高められる環境が整っているのです。
政治・法制度の安定性と投資受け入れ体制
日本は欧米諸国と比べて政治・法制度の安定性が高く、不動産に関しても明確な所有権制度、公正な司法制度、情報開示の透明性が確保されているため、海外投資家も安心して投資することが可能です。日本政府も海外からの投資を積極的に受け入れており、固定資産税・都市計画税の減免制度、想像税の優遇、海外投資家が安心して日本市場に参入できるような透明性とルールを明確化するための外国為替及び外国貿易法(外為法)の改正などにより、低リスクで資金を投入できるマーケットとの認識が広がっています。
インバウンド需要回復と大型再開発ラッシュ
インバウンド需要の回復も、大きな投資要因です。訪日外国人客数はコロナ前を上回る水準で推移しており、観光・ビジネス需要の増加を先取りする形で、ホテルや商業施設への資金流入が集中しています。全国各地で大規模再開発が進められており、これらは海外ファンドの呼び水となっているのです。
国内投資家が受ける影響と戦い方
価格上昇と利回りの低下
海外ファンドによる巨額資金の流入は、必然的にそのエリアの不動産価格を押し上げる圧力になります。プライムエリアの優良物件は取引価格が高騰し、表面利回りが3%台前半まで低下するケースもあるようです。資金力で劣る国内の個人投資家が海外ファンドと同じ土俵でプライムアセットを競り落とすのは非現実的といえます。
共同投資・小口化商品で参画のチャンス
かといって、プライムアセットへの道が閉ざされているわけではありません。最近は複数の個人投資家から資金を集めプロの事業者が不動産に投資する「不動産クラウドファンディング」、大型物件を小口化して投資家に販売する「小口化商品」、ブロックチェーン技術を使い不動産の所有権をデジタル化して販売する「不動産ST(セキュリティトークン)」を通じた参入も可能です。
二番手エリア・バリューアップ型で差別化
海外ファンドが狙うような一等地の周辺に位置する準一等地・二番手エリアにも、投資妙味のある物件は存在します。都心へのアクセスが良く生活利便性が高いにも関わらず物件価格が抑えられているため、相対的に高い利回りを確保できる可能性があります。海外ファンドはこうしたエリアには目を向けないので、チャンスといえるでしょう。
築年数が経過・設備が古くなった中小規模の物件を、適切なリノベーションや改修で再生し、賃料を向上させるのも手です。海外勢が買うのは大型の施設なので、こういった物件も狙い目となります。取得価格を抑えられるのもメリットです。
まとめ
円安と低金利の環境が継続する中、海外ファンドが日本のプライム不動産を取得するトレンドは継続するでしょう。個人投資家がこの状況を賢く乗り切るためには、不動産クラウドファンディングや不動産STといった小口化商品の活用、海外ファンドが狙わないエリア・物件を取得し差別化を図ることです。自身の資金力とリスク許容度、投資目標に合わせた戦略を練り、資産の最大化を実現しましょう。
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