大阪・ムンバイ・NYが躍進!指数で見るグローバル不動産市場の潮流


世界の主要都市の不動産市場は、常にダイナミックに変動しています。特に近年は、経済情勢、働き方の変化、グローバルな投資などの様子が複雑に絡み合い、都市間での二極化が鮮明になりつつあるようです。こうした市場の潮流を客観的に捉えるのに有効なのが、一般財団法人 日本不動産研究所が発表する「国際不動産価格賃料指数」です。ここでは、2025年5月30日に発表された第24回調査の結果に基づき、グローバル不動産市場の現状を紐解きます。
国際不動産価格賃料指数とは
調査概要と対象範囲
日本不動産研究所は、1959年に設立された国内最大規模の不動産鑑定・コンサルティング機関です。同所はさまざまな調査を行っており、その1つが「国際不動産価格賃料指数」です。これは、国際的な主要都市の不動産市場の動向を調査するため、対象と市の調査物件について、日本不動産研究所の不動産鑑定士が評価した価格・賃料を指数化したものです。
対象都市は、東京、大阪、北京、上海、香港、台北、ソウル、シンガポール、クアラルンプール、バンコク、ジャカルタ、ホーチミン、ムンバイ、シドニー、ニューヨーク、ロンドンの16都市。1都市あたりオフィス3物件、マンション3物件の計6物件を対象に半年ごとに(4月1日、10月1日)調査を行います。
指数の読み方
調査内容は、価格時点において対象物件の新築・新規契約を前提とした1㎡あたりの価格・賃料を評価し、指数化しています。オフィス・マンションそれぞれについて、今回の調査であれば2020年4月の調査結果を100としたうえで、価格指数・賃料指数を示しています。指数値が100より高ければ基準時点より価格・賃料が上昇していることを意味し、低ければ下落していることを意味します。
2025年4月調査の主要トレンド
オフィス価格・賃料の動向
オフィス市場の価格指数で対前回変動率がもっとも高かったのは、ムンバイ(+1.6%)、次いで東京(+1.0%)でした。インドの金融ハブであるムンバイは、堅調な経済成長と企業活動の活発化が背景にあります。
賃料指数の対前回変動率がもっとも高かったのは大阪(+2.2%)、次いでムンバイ(+1.6%)です。大阪は万博開催に向けた期待感、さらには既存のオフィス需要の高さと空室率の低さが影響したと考えられます。
一方、アジア大都市圏で価格・賃料ともに調整局面が続くのは、北京・上海・香港です。中国本土の経済の減速、香港は政治的・経済的な不確実性が影響したと考えられます。
マンション価格・賃料の動向
マンションはどうでしょうか。価格指数の対前回変動率がもっとも高かったのはニューヨーク(+3.0%)でした。世界経済の中心地であり、富裕層を中心とする資産保全、株高などによる資産価値の向上が価格を押し上げる要因になったと考えられます。
賃料指数の対前回変動率は、オーストラリアのシドニー(+3.7%)がトップ。留学生や移民の流入、物件の供給不足が賃料を押し上げました。
注目すべき都市は、価格・賃料指数の両方で2位となった、ムンバイです。インド経済の成長と富裕層・中間層の増加が住宅需要を喚起しています。
日本に目を向けると、東京(価格指数+1.4%/賃料指数+1.2%)、大阪(価格指数+1.5%/賃料指数+1.1%)は、価格・賃料ともに堅調な動きを継続しています。オフィス市場と同様、北京・上海・香港の価格指数変動率は前回からマイナス。賃料指数変動率も香港は+0.9%でしたが、北京と上海は下落しました。マンション市場でも調整に直面しています。
都市別詳細分析
日本(東京・大阪)
代表的な都市の動向も見ましょう。東京・大阪はいずれも堅調なパフォーマンスを示しています。東京のオフィス市場は、高い賃貸需要を背景に安定した動きを見せており、近年は企業が優秀な人材を確保するため、交通利便性の高いハイクラスオフィスへのニーズも高まっています。特に丸の内、大手町、虎ノ門、渋谷といった再開発が進むエリアでは、高いスペックへの移転ニーズが旺盛です。マンション市場も都心回帰や単身者・共働き世帯の増加、富裕層による投資・セカンドハウス需要が相まって、価格・賃料ともに高水準を維持しています。
大阪のオフィス市場は、万博開催に向けた期待感に加え、堅実な経済成長と企業活動の活発化が賃貸需要を牽引。梅田や淀屋橋といった中心部のオフィスは空室率も安定しています。マンション市場も万博やIR誘致への期待感、国内外からの人口流入が続くことで、価格・賃料ともに右肩上がりを続けています。
インド(ムンバイ)
今回の調査で、いずれの項目においても上位にランクインしたのが、ムンバイでした。インドの経済成長を牽引する金融の中心地であり、世界的な企業のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)拠点としても注目されているのが背景にあり、これら産業の成長が高グレードなオフィスへの需要を生み出しています。経済の発展に伴い、富裕層や中間層の購買力も増しており、彼らの住宅需要がマンション価格・賃料の上昇も招いています。
米国(ニューヨーク)
オフィスに関しては、価格・賃料ともに指数は100以下。ただし、前回からの変動率は悪くない結果です。ポストコロナで企業がリモートワークの定着によりオフィスの物理的なスペースを縮小する一方で、社員のエンゲージメントやブランディング向上のため、質の高いオフィスへの移転を進めている過程にあるからでしょう。マンション市場においては米国の歴史的な株高が富裕層の資産を押し上げ、資産の分散・保全のため高価格帯への住宅需要が、価格・賃料を押し上げています。
東南アジア・オセアニア
タイのバンコクやインドネシアのジャカルタは、過去の供給過多や経済成長の鈍化、政治的な要因により、オフィス・マンション市場ともに調整局面が続いています。特にコンドミニアム市場では投資用物件の供給が増えた一方で需給は伸び悩み、空室率の高止まり、賃料も軟調に推移しています。
オーストラリアのシドニーは、今回の調査でマンション賃料上昇率のトップとなりました。コロナ禍で止まっていた留学生や移民の流入の再開が要因です。住宅建設が需要に追い付かず、賃料を引き上げています。
イギリス(ロンドン)
政治的・経済的な不確実性から調整局面を迎えています。ブレグジット(EUからの離脱)やインフレ、金利上昇の影響を受け、オフィス・マンション共に価格・賃料は伸び悩んでいます。ただし、一部エリアで価格の下落が止まり、賃料も横ばい・わずかに上昇する動きが見られます。また、価格調整が進んだことで相対的に利回りは改善され、ポンド安は海外投資家にとって購入のチャンスです。ロンドンの不動産に対する関心は高まりつつあるといってよいでしょう。
まとめ
横今回の調査結果では、世界的に質の高い物件への選好が強まり、都市間での二極化が鮮明になっているトレンドが見えてきました。ニューヨークやムンバイ、東京・大阪といった経済的に安定し、需要の強いプライムアセットは、価格・賃料ともに堅調に推移しています。他方、供給過多や経済の不確実性、地政学リスクを抱える都市では、調整局面が続きそうです。投資判断には指数の定点観測と各都市のファンダメンタルズの把握が不可欠であり、これがリスクを抑えリターンを最大化するためのポイントになります。
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