なぜ金利が上がると株価は下がる?伝説のアナリストが日常の疑問から解き明かす「金融の正体」


「銀行のシャッターは、なぜ午後3時に閉まるの?」「Suicaにチャージしたお金は、現金で引き出せるんだっけ?」
こうした日常に潜むお金の疑問を、つい忙しさにかまけて放置してしまってはいませんか?
実はその「なぜ?」こそが、複雑に見える経済の仕組みを理解する、最高の入り口なのかもしれません。
今回ご紹介する『教養としての「金融&ファイナンス」大全』は、まさにその「素朴な疑問」から出発し、金融の本質へと読者をいざなう画期的な一冊です。著者は、アナリストランキングで11年連続1位という伝説的な実績を持つ野崎浩成氏。500ページを超えるボリューム(通称:鈍器本)にもかかわらず、発売後すぐに増刷がかかるほど、多くのビジネスパーソンや投資家から絶大な支持を集めています。
なぜこの本が、これほどまでに人々を惹きつけるのか。その秘密は、従来の教科書的なアプローチを覆す、著者ならではの執筆哲学にありました。本書をもとに、一生モノの金融リテラシーを身につけるヒントを探っていきましょう。
「なぜ?」から始まる、新しい金融の学び方
本書の最大の特徴は、小難しい理論からではなく、誰もが一度は抱いたことのある「素朴な疑問」から金融の世界を解き明かす点にあります。このアプローチは、ノーベル物理学賞受賞者リチャード・ファインマンの「疑問のないところに学びはない」という言葉に深く根ざしています。
その哲学が最もよく表れているのが、冒頭の「PART 0:素朴な疑問」です。ここでは、「GAFAはなぜ銀行を経営しないのか?」といった現代的な問いから、「3時にシャッターが下りた後の銀行の中では何が起きているのか?」といった昔ながらの疑問まで、30のQ&Aがリストアップされています。
たとえば、「Suicaにチャージしたお金はなぜ現金で引き出せないのか?」という疑問。答えは、Suicaが法律上「前払式支払手段」という扱いで、「お金」そのものではなく「サービスを受ける権利の証明書」だからです。払い戻しを原則認めないルールがあるからこそ、銀行のような厳しい規制なしに便利なサービスが展開できるのです。このように一つの「なぜ?」が、私たちの生活を支える金融のルールへと繋がっていきます。
著者の野崎浩成氏は、シティグループ証券マネジングディレクターなどを歴任し、日経アナリストランキングで総合1位(2010年)にも輝いた人物。彼が貫くのは、ネットにあふれる根拠の薄い情報とは一線を画し、法的な視点や理論に基づいた「明確な答え」を示すこと。実務経験で得た業界の裏話も随所に散りばめられ、机上の空論ではない、血の通った知識が得られるのです。
お金の「しくみ」と「投資」の基本原理を体系的に学ぶ
素朴な疑問で金融への興味を深めた後、本書はより体系的な解説へと進みます。PART 1では「金融のしくみ」として、お金そのものの正体に迫ります。国家の信用を基盤とする現代の「不換紙幣」の成り立ちから、銀行が預金を元手に貸し出しを繰り返し、世の中のお金の量を増やす「信用創造」のメカニズムまで、金融システムの根幹が明かされます。
特に、著者が鋭く指摘するのが、日本が長年置かれてきた「金融抑圧」という特殊な環境です。
これは、政策的に金利が人為的に低く抑えられ、本来であれば預金者が受け取れるはずの利息収入が失われてきた状態を指します。この長期間にわたる低金利政策が、なぜ日本の個人資産が「貯蓄」だけでは増えにくかったのか、その構造的な理由を解き明かしてくれます。
そして、個人投資家にとって特に関心の高いテーマを扱うのが、PART 2の「投資・運用の視点」です。異なる値動きの資産を組み合わせることでリスクを分散させる「モダン・ポートフォリオ理論」や、アインシュタインが「人類最大の発明」と呼んだ、利子が利子を生むことで資産が雪だるま式に増えていく「複利の力」など、長期的な資産形成に不可欠な原理原則が丁寧に解説されています。
タイトルにもある疑問「金利が上がると株価は下がるのはなぜ?」に対する答えも、この章で詳しく語られます。一つは、金利が上がると企業が将来生み出す価値の「現在価値」が目減りしてしまうから(割引キャッシュフロー法)。もう一つは、投資家にとって国債のような安全資産の魅力が増し、「リスクのある株式から、安全な債券へ」というお金の流れが生まれるからです。さらに企業の視点に立てば、金利が上がると銀行からの借入コストが増大するため、新たな設備投資などに慎重になり、結果として経済活動が鈍化するという予測が株価を押し下げる要因にもなります。
経済の未来を読む「3つの視点」。金利、技術、そして「人間の心理」
金融の世界は、常にダイナミックに変化しています。本書は、その変化を読み解くための重要な視点を提供してくれます。
一つ目は「金利」。金利は市場の異変を知らせる「炭鉱のカナリア」とも呼ばれ、特に長期金利が短期金利を下回る「逆イールド」は、将来の景気後退の有力なシグナルとされています。
これは、市場参加者の多くが「将来、景気が悪化して中央銀行は利下げに踏み切るだろう」と予測するためです。その予測のもと、現在のうちに利回りが高い長期債券を買い求める動きが活発になり、長期債の価格が上昇(=金利は低下)し、結果として長期金利が短期金利を下回るという逆転現象が起きるのです。つまり、市場全体の集合的な知性が、金利という客観的な数字に表れていると言えます。
二つ目は「技術革新(FinTech)」。キャッシュレス決済やAIによる与信審査、そして暗号資産やCBDC(中央銀行デジタル通貨)は、既存の金融システムを大きく変える可能性を秘めています。
従来は銀行が一体で提供していた「預金・貸出・為替」といった機能がバラバラに分解(アンバンドリング)され、異業種のプレイヤーが参入しやすくなりました。そして今、それらのサービスがスーパーアプリなどで再び統合(リバンドリング)されるという、業界の地殻変動が起きているのです。
そして三つ目が「人間の心理」です。人は利益の喜びより損失の痛みを強く感じる「損失回避性」や、自分の考えを支持する情報ばかり無意識に集めてしまう「確証バイアス」、そして周りの行動に流されてしまう「群集心理(ハーディング現象)」といった非合理的な判断を下しがちです。
SNSと群集心理が生んだ「ミーム株」現象などはその典型例でしょう。金融とは、数学だけで語れるものではなく、「人間そのものの営み」であるという著者の視点がここに表れています。
【本書の要点】
① 日常の「なぜ?」から本質に迫る、新しい学びのスタイル
本書は「Suicaのお金はなぜ引き出せない?」といった身近な問いを入り口に、読者を自然と深い金融の世界へ導きます。伝説のアナリストによる実務経験に裏打ちされた解説は、単なる知識に留まらない、生きた知恵を与えてくれます。
② 金融システムから投資家心理まで、経済を立体的に理解
お金の歴史や「信用創造」といった金融の基本構造、日本の「金融抑圧」という特殊な環境、そして企業の価値を測る手法や、人間の心理が市場に与える影響(行動ファイナンス)までを網羅。経済ニュースの裏側を読み解くための、多角的な視点が養われます。
③ 数学が苦手でも大丈夫。「社会科学」としての金融入門
難解な数式を極力使わず、金融を「人間そのものの営み」という社会科学的な視点から解説。文系のビジネスパーソンや学生でも安心して読み進められ、「貯蓄から投資へ」の時代に不可欠な金融リテラシーの礎を築くことができます。
資産形成についての勉強方法を知りたい方は、下記の過去記事もあわせてお読みください。
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