「節税って、ズルいことですか?」元国税×現役投資家が明かす、知らなきゃ損する「不動産節税」のリアル


「節税」と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?
なんだか難しそう、ズルそう、資産が多い富裕層の話。そんな印象を抱く人も多いかもしれません。でも、それは大きな誤解です。税金は「納めることが義務」である一方、「節税することは権利」でもあるのです。
今回紹介する『元国税の不動産専門税理士が教える! 不動産投資節税の教科書』(2024年、ぱる出版)は、まさにこの「節税はズルじゃない」という視点から、資産形成のための投資として不動産購入を検討している人が知っておくべき、お金と税金の“リアル”を教えてくれる1冊です。
著者は18年間にわたり国税局に勤め、現在は税理士かつ現役不動産投資家でもある川口誠氏。彼の二重の視点から見える税務の本質を紐解いていきましょう。
1.節税とは、「キャッシュフローの守り方」である
節税とは、一見すると「税金を安くするテクニック」と思われがちですが、その本質はもっと深いところにあります。ビジネスにおける節税とは、単なるコスト削減ではなく、資金管理と戦略設計の一部であり、「いつ・いくら税金を払うか」をコントロールする行為ともいえます。
たとえば、不動産投資においては減価償却という制度を活用することで、帳簿上の費用を計上しながらも実際のキャッシュアウトは発生せず、課税所得を抑えることが可能になります。しかし、この減価償却は「節税の万能薬」ではなく、あくまで税の繰延べ、すなわち“支払いのタイミングを後ろ倒しにする”だけに過ぎません。
この繰延べが終わった瞬間、突如として帳簿上の利益が跳ね上がる――これが「デッドクロス」と呼ばれる現象です。減価償却費が消えた途端、利益は増え、課税額が急増し、キャッシュフローを圧迫。元金返済額が減価償却費を上回る状態になり、黒字倒産するリスクすらあります。
このデッドクロスを避けるためには、「出口戦略」を意識した節税設計が不可欠です。
ここで参考になるのが、『不動産投資節税の教科書』で紹介されている回避策です。たとえば、法人であれば「任意償却」を活用し、減価償却費を年ごとに調整できます。あるいは、減価償却が終了する前に売却タイミングを見極めることで、帳簿上の利益急増を避ける戦術もあります。
複数物件に投資し、それぞれの償却タイミングをずらすことで課税インパクトを分散させる、というポートフォリオ管理の発想も重要です。さらに、月次ベースでのキャッシュフロー管理を徹底し、帳簿利益と現金収支のズレを早期に把握することで、意思決定の精度は格段に上がります。
節税は“始める”ことより、“終わらせ方”のほうが難しいという視点は、不動産投資に限らず、あらゆる場面において有効な教訓となるでしょう。
2.節税スキームは万能ではない?“税務調査”という現実
節税のもうひとつの重要な視点が、「どのような姿勢で向き合うか」という“マインドセット”の部分です。
節税とは本来、制度のルールに則りながら、より効率的にキャッシュフローを守るための知的戦略です。しかし現実には、「税務署にバレなければOK」「とにかく課税を減らせば勝ち」という短絡的な考えで節税を捉えてしまい、結果として税務調査で不備を指摘されるケースも少なくありません。
特に、不動産投資においては“4年償却”といった減価償却スキームのように、表面的には合法であっても経済実態と乖離した節税策を積み重ねることで、税務署のチェック対象になりやすくなります。
ここで大切なのは、「合法かどうか」だけではなく、「説明可能かどうか」「透明性があるかどうか」という倫理的な立ち位置です。
税務署が注視するのは数字の整合性だけでなく、背後にある“納税者の姿勢”も含まれます。著書では不動産投資関係は不正告発が多く、税務調査の対象になりやすいことを指摘し、ひとつひとつの取引額が大きいことから税額も大きくなることが、つい「少しならバレないだろう」という不正に繋がるのではないかと分析しています。
彼が著書の中で紹介する「調査で狙われやすいポイント」も、単に手法の問題ではなく、そこにある運用実態の曖昧さ、つまり、信頼を損なうような処理がないかどうかを見られているのです。
特に見られるのは、以下のようなポイントです。
●家賃収入の申告漏れ(敷金・礼金・更新料の扱い)
●修繕費と資本的支出の区分(現状維持か価値向上か)
●家事関連費(自家用車・携帯電話代など)の按分処理
これらは書類の不備ではなく、「節税が目的化しすぎて、運用の整合性が崩れていないか」が問われる項目です。
節税に取り組む際には、スキームの巧妙さを追求するよりも、「見られても問題ない設計」かどうか、「その処理は自分の言葉で説明できるか」という視点を持つことが何よりも大切です。
節税とは“攻めの技術”であると同時に、“経営者としての姿勢”が試される場でもあることを忘れてはいけません。
3.ステージで変わる「節税の形」とは?法人化・相続・資産承継のリアルな選択肢
節税の戦略は“いつ、どんな立場で、何を持っているか”によって大きく変わります。節税にはフェーズがあり、法人化の判断も、相続対策も、収入規模や資産内容によって“正解”が違います。
たとえば、年間の不動産所得が1,000万円を超えたあたりから、個人としての所得税の累進課税が重くのしかかってきます。ここで登場するのが「法人化」という選択肢です。
法人にすることで、一定の利益までは15〜23.2%の法人税率で済みます。また、法人特有の生命保険の活用や倒産防止共済の掛金損金算入などによって、さらに柔軟なキャッシュフロー設計が可能になります。
ただし、法人化には設立費用や社会保険料の負担増、赤字でも均等割が発生する点などデメリットも存在します。「法人化は節税の万能策」と思い込むのは危険で、事業フェーズや資産構造を冷静に見極める必要があります。
また、相続フェーズに入れば話はさらに複雑です。たとえば、個人で不動産を所有している場合と、法人で保有している場合とでは、相続税評価額や引き継ぎ方が大きく異なります。2023年度の税制改正で「タワマン節税」が実質的に封じられたように、制度の穴を突いた戦術は長期戦略にはなりえません。
相続税評価の圧縮には、法人株式の承継や小規模宅地等の特例の適用など、“正攻法”での対応がより求められる時代になってきています。
こうした視点をふまえて川口氏は、投資の本質は収益性と資産価値の維持向上であり、節税はその手段、それ自体がゴールになるべきではないことを繰り返し指摘しています。不動産投資において「情報の非対称性」が存在するため、投資家自身も専門的な知識を身につけ、情報格差を縮める努力が必要であり、また、税務は専門性の高い分野であり、個別の事案については税理士などの専門家への相談が不可欠です。
【本書の要点】
① 節税は「ズル」ではなく「正当な権利」
本書で一貫して強調されるのは、「節税はズルいことではない」という明快なメッセージです。多くの日本人が納税を“義務”と認識している一方で、「節税=不正の一歩手前」といった誤解が根強く残っている現状に対し、本書は“節税は経営者・投資家の当然の権利”であるという視点を提示。読者が節税に対して抱く心理的ハードルを下げ、積極的に制度を活用する姿勢を促してくれます。
②不動産投資に特化した実践的テクニック
本書の実用的な価値は、「具体的な節税手法」にあります。フェーズごとのさまざまな節税方法や税負担を軽減する実践的な方法論で、誰でもわかりやすく節税のステップを理解できます。さらに、所得が増えてきた場合の“法人化のタイミング”や、法人化によって享受できる税率差や控除の仕組み、相続税の節税方法についても丁寧に解説されています。
③ 「調査されにくい設計」を意識する、元国税調査官のリアルな視点
本書の最大の特徴ともいえるのが、著者が元国税調査官であるというバックグラウンドです。川口氏は国税局調査部で10年以上にわたり実際に調査を行ってきた経験を持ち、その知見が本書に色濃く反映されています。税務調査が行われる際の選定基準、実際に現場で重視されるポイント(家賃や売却益の申告漏れ、修繕費と資本的支出の線引き、私費と経費の按分)などが、調査官の目線で具体的に解説されています。
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監修者プロフィール

川口 誠(かわぐち まこと)
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